BIONICLET 第5話
      ラヒ

よぉ・・・俺はレーザだ。
俺が言うのもあれだが最近身の回りのことがどうもおかしい。

まず、俺には記憶が無いから何か手ががりを探しに行くだろ?そこまではまあいいんだけど問題はそれからだな。
タコス達マトランが襲われてたから助けてやろうとしたら変なやつらに追われるし、
そいつらから逃げた先には丁度よく脱出用ボトルがあったし、それに入っていったら運良くどっかの島に無事に着いたし、しかもそこの住民は悪党に悩まされてるって言うし・・

これは、俺の考えじゃあただの偶然じゃなくて、誰かが俺たち四人をこの島に導いた、というかな。
とにかくこれは俺が突然現れたヒーローとしてその悪党を退治するって運命なんじゃないか?

・・・・とも思ったんだけど突然現れたクモの怪物を島に連れてきた犯人として濡れ衣を着せられたり・・・
でも優しい村長のおかげで一年の猶予が与えられたから絶対に無実を証明して見せるぜ・・

やっぱりどうも普通じゃねえ気がする・・。運命が何かに操られているような・・?

・・・おっとマトラン達が帰ってきたみたいだ。俺は行くぜ・・・

「どうだいレーザ?ここの暮らしは?」タコスが聞く。
「う〜ん・・ちょっと天井が低いかな」レーザはしゃがみながら言う。

「・・・ところでレーザ、クモ退治の話なんだけど・・・・」トルテが気まずげに切り出す。

「あたしたち、タガラン達の農作業を手伝うことになったから、しばらく一人で頑張ってくれない?」


「・・・・・・えぇ〜?・・・」レーザがちょっと残念そうに言う。

「まあお前かなり強いから大丈夫だって!」タコスが押す。

「・・・ああ確かにそうだな」レーザはこういうのに弱いのだ。
「じゃあ決定ね」



「ところでレソト、この前向こうで聞けなかったこと・・え〜と、LE-23だっけ?詳しく教えてくれないか?」レーザが真剣にたずねる。
だが返ってきた答えはレーザの期待を大きく裏切るものであった。

「・・・・・・え、エルイ兄さん?誰ですそれ・・・・」レソトはとぼけた様子も無く普通に言う。

「違う。LE-23だ。言ってたのはお前じゃないか」
「お、思い出せない・・・」レソトは頭を抱えた。
「じゃあみんなに聞くぜ。俺たちはどこから来た?」 「メトロヌイ。」
「そこで何があった?」 「でっかいトンボと黒いヴァキに襲われた。」
「その前は?」 「壊れたヌーラックに襲われた。」
「その前は?」 「・・・・・・・・・!?・・・・」

「・・・ん?その前は何があったんだっけ・・」タコスがうつむく。
「そういえば・・何でガーマトランとレーマトランがターメトロのヴァキなんかと一緒にいたのかしら」トルテも覚えていないらしい。

「・・・やっぱりか・・う〜ん・・俺が思うにゃ、どうやらこの前の漂流で、お前達の記憶にいくらか障害が出てきたみたいだな・・・」
レーザはありったけの知識をしぼってそう言った。「俺はもともと記憶が無かったから大丈夫だったけどな」

「僕も記憶喪失かぁ・・・でも僕は研究や発明をしてタコスと遊んでたことは覚えてるよ」 レソトが言う。
「・・・え?そうだっけ?」タコスがからかう。
「とにかく、普通に暮らしていけるだけの記憶があって良かったわ。」


「じゃああたし達は招集がかかってるからそろそろ行くわね」
トルテがそういうとマトラン達は畑の方へと走っていった。



(困ったぜ・・・レソトの記憶が完全に戻るまで俺は自分の過去について知ることはできねぇ・・・)


「・・・・って俺マジで一人かよ」
レーザは村を行く当ても無くぶらつくことにした。


「ふぅ・・やっぱり世間の目はきついぜ」
多くのタガランたちは、怪物を連れてきたらしい人物をかなり警戒しているらしく、レーザを見ると素早く家に隠れたりした。

しばらく歩いていくと・・・
「あ!レーザ!」そう言って駆け寄って来たのは、この前一緒にクモの怪物と戦った少年、タルボだった。

「アイツに犯罪者扱いされてたから無事かどうか心配したよ。」タルボは何か嬉しそうに話す。
「お前もずいぶん元気そうで良かったぜ。怪物は結構強かったからな」

「そうそう、僕の友達を連れてきたんだ!紹介するよ。」

すると黄色マスクのタガランが突っ走ってきた。
「おうおう!珍しくなかなかのデカブツじゃぁないか!名前はなんていう?レーザー?なかなか鋭い名前じゃぁないか!」
「・・・ごめんレーザ。この変なのが僕の友達パクチョだ。芸人目指してるから普通の会話もネタの練習にしてるんだ」タルボがパクチョを後ろに引っ込めながら言う。

「ずいぶんテンションが高いヤツなんだな」レーザがちょっと呆れ気味に言う。
「うんうんそうだろう桃太郎」 「・・・・・・ごめんレーザ」


パクチョのネタでしらけていた所へ、レーザには突然どこかで聞いたことのある音がした気がした。
(ええと、この音は・・なんだかいやな感覚だ・・これは・・いつだったかの・・・)

ブブブブブブブ・・・!!

(この音はまさか!!)

ブブブブブブブ・・・
「・・・・ど、どいて下さい〜!!」

「!!!!」


・・・・レーザが目を開けると、トンボのラヒはぶつからずに地面に着陸できていたようだった。

「・・ってぎゃああああ!あの時のトンボの怪物!!」レーザは思わず後ずさりする。

「・・・ご、ごめんなさい;」 トンボラヒに乗っていたタガランの少女が話しかける。

「あわわわわわ・・・は、早くそのトンボから離れたほうがいいぞ・・・」レーザにはタガラムヌイのことが少しトラウマになってるようだ。
「大丈夫だよレーザ。こいつは人を襲ったりしない。」 タルボはそう言いながらトンボラヒをなでている。

「・・はい。このラヒは特別温厚で滅多に怒ることは無いです。」 少女は説明口調で言う。
「ら、ラヒ?」

「・・・・ラヒとはこの世界に生息する動物達の総称です。森や海、空や地中、さらには火山など世界全土に住んでいます。
非常に多種多様な種類が居り、大きな獣からこの子のような虫のラヒまで様々です。」少女が説明。
「ふ〜ん・・・このトンボは何ていうんだ?」
「コタガラムというラヒです。ちなみに名前はデリーです」

「その前に自分の紹介をしなよw こいつはペクティ。普段は大人しいけどラヒのことに異常に詳しいんだ。しかもラヒ図鑑っていう分厚い図鑑を完成させようと毎日飛び回っているんだ。その図鑑のおかげで僕達タガランは前よりラヒと仲良くなったんだけどね」
タルボは他人の紹介のほうが得意なようだ。

「ほぉ〜・・よろしくなペクティ。」
「は、はぁ・・・」ペクティの反応は何か微妙だった。


「ところでこいつを見てくれ!」

パクチョがそう言うと、小さなラヒが彼の足元に集まってきた。
「このちっこいのもラヒなのか?」レーザがラヒをまじまじと見ながら言う。

「はい。これはコロムというラヒとその一種です。小さいですが体がとても硬く、捕食者から防御することが出来ます。温厚で、しつけをすれば言うことを聞いてくれる事から、ペットとして人気があります」
ペクティがまたまた説明。
「ほうほう・・ってあんたの頭には図鑑一冊分入ってるのかよ」
「はい。実際は図鑑に書ききれなかったことなども入ってますが。」ペクティが淡々と言う。
するとタルボがレーザにひそひそ話しかけてきた。
「こいつはマスクの力でどんなすんごく細かい事でもびっしり覚えるから気をつけたほうがいいぞ」

「・・その言葉を聞いたのは53回目ね」ペクティが背を向けてラヒを触りながら言う。 「!!!!」

「耳もいいのか?」「ラヒと長年暮らしてるやつだからねぇ」


「・・・!!・・・何か聞こえる・・・・!!」ペクティはそういうと空を睨みだした!
何やら彼女の隣にいるコタガラムも警戒している。

「何だ?」レーザが空を見上げた時!

ブブブブブブブブブブ・・・

空を飛んでいたのはあの時レーザたちを襲ったトンボラヒに酷似したラヒの大群だった!

「・・あれはタガラム・・!・・でも何であんなにたくさん・・・?」ペクティが呟く。
「おいペクティ、さっき温厚だから滅多に襲ってこないって言ったよな?」レーザが不安げに言う。

「・・・え、それは・・」

ブブブブブブ・・

空中で旋回していたタガラムの大群は急に止まると、村に向かって突進してきた!!
そして次々に家を壊しタガラン達を襲いだしたではないか!!

「おいペクティ!さっき襲わないから大丈夫だって・・」
「あれはコタガラムの話です!今襲ってきているのはタガラムといって少し気性が荒いラヒなんです!
・・・でもこんなに凶暴ではなかったはずなのに・・・」

タガラムはまるで狂ったように暴れ、村を壊していく。

「どうやら戦うしかなさそうだな・・・!」レーザは武器を構えタガラムを睨む。
「私がデリーと一緒に群れを遠くに引きつけますから、それまで耐えられますか?」
「ああ、前に戦ったやつより小せえからなんとか出来そうだ」レーザがそういうとペクティは大空へ飛び立った。

「さぁて、やってやるぜ!」
レーザは威勢こそ良かったものの、タガラムの機動力に翻弄されていた。
「くそっ!ちょこまかしやがって!」
タガラムは噛み付いては逃げ、噛み付いては逃げを繰り返すのでなかなか攻撃が当たらない。
更には羽音の五月蝿さで上手く集中できないのだ。

「まぐれ当たりを狙うか・・・・そこだっ!」レーザは思い切り武器をたたきつけた!
しかしタガラムはそれを歯でくわえると噛み砕こうとしてきた!みるみるレーザの武器がボロボロになっていく・・。

「あ゛〜!!俺の武器が!!」レーザがタガラムを振り払うと、タガラムの群は何やら飛び去っていく様子だった。
どうやらペクティの誘導が成功したらしい。

「この辺りで良いわね」
ペクティはデリーの小柄な体系を生かして岩陰に隠れ、なんとかタガラム達を撒いた。

ペクティが帰ってきたときには、村の多くのものが壊されていた。
またタガラン達のほとんどは負傷して座り込んでいた。
「・・何て事・・でも何故タガラムがあんな風におそってきたのかしら・・・」

「うぅ・・・俺の武器・・・短い命だった・・。」レーザはそっちで悲しんでいる。
「・・・・幸いケガ人だけですんだわ・・。なるべく早く村を直しましょ・・」ペクティがそういうも、レーザはまだしょげて聞かなかった。


しばらくすると・・・
「あ!ペクティ!」

そう言って突っ走ってきたのはまたまた黄色マスクの別のタガランだった。

「・・・お次は誰だ?」レーザがすねながら言う。

「あらキズミィ!どうしたの?」ペクティの反応からしてこちらも女性タガランのようだ。
「この間のヴィソラックの死骸を調べていたらまた発見があったの!ちょっと見に来て!」
キズミィと呼ばれた少女は村の奥の方へ走っていった。

レーザもとりあえずついて行く事にした。

「これなんだけど・・・」
それはまさしくレーザが倒した個体であった。
「大アゴから分泌されている毒を調べたらバラサキシンが検出されたのよ」キズミィが言う。
「その毒はラヒの一部が持っていたはずだけど・・どんな毒かはよく知らないわ」ペクティが死骸を眺めながら言う。
「少し調べてみる必要がありそうね」

(もうこいつらの会話にゃついていけん・・・)そう思ったレーザはまた村をうろつく事にした。



しばらく歩いているとまたタルボに会った。どうやらさっきの騒ぎで軽いけがを負っているらしい。
「大丈夫か?タルボ」 「僕は大丈夫だけど・・・レーザの方が元気無いぞ」
「ああ、武器がやられちまった」 「・・それならアゴヒゲのおっさんの所に行くのが良いよ。
                                               あそこの竹やぶの中にある小屋を訪ねてみるといい。」

「分かった。ありがとよ」 レーザはそういうと竹やぶの中へ入っていった。

「・・意外と広いんだな・・」竹やぶの中にはなかなか大きい庭があり、その端っこに小さな小屋があった。
近くに鍋や鍬などが積み上げられており、看板に小さく「鍛冶やってます」と書いてある。


「何者だ・・・!」
渋い声でそう言って出てきたのは、まるで顎にヒゲがついたようなマスクを着けたタガランだった。

「見慣れん顔じゃのぅ・・・」おっさんはレーザは見回しながら言った。
「俺は他の島から漂流してきたレーザだ。ところで、この壊れた武器を直してくれないか?」

「ほぉ・・だが、ただでという訳には行かんぞ・・」おっさんはそう言うと、レーザの武器を手に取った。
「・・む!!!・・・こんな金属は見たことも触ったことも無い・・おいレーザよ、ぜひこの武器預からせてくれんか?」
「ああ、直してくれるんなら良いよ」 レーザがそう言うとおっさんは素早く修理道具を引っ張り出し、作業を始めた。
「こんなにわくわくしたのは久しぶりじゃわい」


しばらくして、レーザはふと、真剣だが楽しそうに鍛冶をしているおっさんに話しかけてみた。
「なあおっさん、聞いても無駄だと思うが、敵がちょこまか動いて全然捉えられなかったらおっさんはどう立ち向かう?」

「あぁ?・・そりゃあオメェ、射程距離と攻撃範囲が広い武器を作るまでよ」
「じゃあ作ってくれないか?」
「ふん・・・残念だがこの武器で用は足りるぞ。この材質でこの軽さならブーメランとして使うことは出来る。」
「そりゃ本当か?」レーザは予想外の答えに驚く。
「ちょっと見ていろ」
おっさんはそういうと、レーザの武器を持って庭に立つと、思い切り振り投げた!
レーザの武器はきれいに円を描きながら飛び、竹やぶに突っ込むと、何十本かの竹を斬って帰ってきた。

「・・・おっさん、あんた何者・・?」レーザはおっさんがやってのけたので唖然とした。
「俺ゃぁただの鍛冶屋だ。・・普段は鍋とか農業用具なんかしか作っとらんが昔はよく武器をつくったもんじゃった」
おっさんはそういうと、また作業に入った。

「俺も出来るように練習するぞ!」レーザはそういうと、思い切り武器をブン投げた。
武器は空中でよろよろしてぽとっと地面に落ちた。「あぁ〜くそ、もう一回!」
レーザは何度も挑戦するがまったく上手くいかない。
そんなこんなで長い時間だけが過ぎていった。

「あ゛ぁ〜・・・もうやだ」レーザはすっかり投げ出してしまった。
するとやっとおっさんが歩いてきた。
「何をやっている。・・3時間前から思っていたんだがお前には手首のスナップが足りん。もう少し意識してやってみろ」

「アドバイスならもっと早く言ってくれよ〜」
レーザは気を取り直して再び武器を持ち、素早く振り投げた!

すると武器は轟音を立てて飛び、向こうの竹やぶを吹っ飛ばした。

「・・・お・・・やったぞおっさん!」レーザは跳ねて喜んだ。
「ああ、アドバイスしてすぐ出来た辺りマグレっぽくもあるがな・・・レーザ、油断するなよ」おっさんは静かに言った。
「へ?・・・ぶっ!!」レーザは帰ってきたブーメランに思いっきり頭を打ちつけた。
「ブーメランは帰ってくる。それを忘れるな」
おっさんはそう言うと家に戻ろうとした。・・・その時!

ガサガサ・・・!

「!!!」
「誰だ!?」

近くの竹やぶで何やら音がした。竹の向こうに何者かがいることは確実だ。

「おっさん・・・」「うむ。気づかれんよう覗いてみよう」

竹の向こうを見ると、一匹のタガラムが眠っていた。
どうやらついさっき降りてきて眠りについたばかりらしい。
「何だ・・ただのタガラムか」

しかし問題は他にあった・・
ガサガサガサ・・

なんとタガラムの背後にゆっくりとヴィソラックが近づいているではないか。
「!!・・あのクモ野郎・・何するつもりだ!」レーザは飛び出そうとしたが、おっさんに止められた。
「うかつに出んほうが良い・・」
「それもそうか・・・そうだ、俺がここを見張っているからおっさんはペクティを呼んできてくれないか?」
「・・・・分かった、本当に見張るだけにしておけよ」
おっさんはそういうと気づかれないように竹やぶを出た。


レーザが手を出すのを我慢して待っていると、おっさんとペクティが走ってきた。
「これは・・何をする気なのかしら・・・食べるだけにしては妙だわ」ペクティにもヴィソラックのことは良く分からない。

ヴィソラックはじわじわとタガラムとの距離を詰めていく・・・。


すると!
ギャァァァァァ!
タガラムのけたたましい鳴き声の後ろで、ヴィソラックがその牙をしっかりと突き刺していた!

「・・・・毒を・・注入してる・・?」ペクティが顔をしかめる。
するとみるみるタガラムの様子がおかしくなってきた。
ヴィソラックが牙を離すと突然暴れ回り、土を荒らし竹を食べ、やがて仰向けになって苦しみだした。

「あの野郎!!」レーザが思わず飛び出すと、ヴィソラックは素早く竹林の中に逃げていった。

「逃げられたか・・・ん!?」
タガラムは突然もがくのを止め起き上がり睨むと、レーザに襲い掛かってきた!
「助けようとして出てきてやったのにそりゃねえだろ!」
タガラムはまた狂ったように噛み付こうとしてくる。
レーザは反撃に出ようとしたが攻撃をいとも簡単に避けられてしまった。

「こうなったら・・・あれを使うしかねぇ!」

レーザは後ろに下がり大きく間合いを取ると、ブーメランショットを放った!

油断しきっていたタガラムは正面からブーメランを受けることとなった。
その衝撃で羽根も麻痺しているらしく、うまく逃げられないのかそのまま横たわっていた。

「さて・・とどめと行くか」
レーザは武器を動けないタガラムに突きつけた。

「・・・止めて!!」 そう大声で叫んだ声の主は意外にもペクティだった。
ペクティはタガラムをかばう形でレーザの前に立ちふさがった。

「・・・どういうつもりだ?」

「このタガラムに罪は無いわ・・きっとあのヴィソラックの毒でおかしくなっているだけよ・・!」

「・・だとしても・・・・このまま生かしておいてまた暴れだしたら被害者が増えるだけだ」

「自分達のためだったら罪の無い命を消しても良いって言うの!?」

「じゃあどうしろってんだ!?」


辺りに緊迫した空気が流れる・・・・。


「そこをどけ。早くどかないと・・・」レーザは非情ともとれるほど武器をペクティに突きつけ無理矢理どかせた。


丁度その時・・

「ペクティ〜!出来たわよ〜!」
怪しげなビンを持って竹やぶから飛び出してきたのはさっきのキズミィだった。

だがそこには恐ろしい静寂が流れ、今まさにレーザがタガラムにとどめを刺さんと手を上げたところだった!
そして・・・

ガキッ!!

レーザの武器とタガラムの頭の間にあったのは、キズミィの持っていた怪しげなビンであった。
ビンの中から流れ出た液体がタガラムの口の中に流れ込む。
「・・・何だ?」
「・・私が・・投げたのよ・・」キズミィが汗だくになりながら言う。
するとタガラムの呼吸が少しずつ穏やかになっていく。そしてやっと正気に戻ったのか後ずさりして行った。

「あのヴィソラックが持ってた毒は、ラヒの神経を刺激し、理性を失わせるの。いわば凶暴化させるものね。
そして私が投げたあのビンの中に入ってたのは、そのバラサキシンへの特効薬。幸いその辺の薬草で作れたわ。」
キズミィがタガラムの様子を見ながら言う。

「ありがとうキズミィ。助かったわ」 ペクティもタガラムに駆け寄る。

「・・・・何だい助けられるんじゃん・・・俺バカみたいだったな」レーザはちょっとすねる。

「今すべきことは他のタガラムも助けることね」ペクティがレーザに言う。
「分かったよ・・・あの憎いクモ野郎の手がかりも掴めるしな・・・・だけどそんなに薬があるのか?」

「薬のことは大丈夫!大鍋に余るほど作っておいたわ!」キズミィが大量のビンを持ってきて言う。
レーザはそのビンを後頭部の物入れに詰め込むと、空を睨んだ。

「そう遠く無いうちにまた襲いに来るだろうな・・・」


レーザはおっさんに別れをつげると、村の広場に戻って待ち構えることにした。

しばらくして・・・
ブブブブブブブブブブブ・・・

さっきとは違うおびただしい量のタガラムの大群が村の上空を埋め尽くした!!
ところどころにタガラムとは違った近種の姿が見受けられる。

「来やがったな・・・!相手をしてやる!!」

タガラムの大群はまるで村に残ったものを掃除をするかのように襲い掛かってくる・・・!

「・・・ちっ!当たりゃしねぇ!」
タガラムはあざ笑うかのようにレーザの周りを飛び回っている。
レーザの攻撃は何度か当たることはあったものの、隙が無く上手く薬のビンを食べさせることが出来ない・・。
「・・そうだ!」 レーザはそう言うと、突進してきたタガラムの頭をとっさに踏みつけ後ろに飛んだ。
タガラムの群れはレーザのほうに一斉に向くと、再び囲もうと近づいてきた!

「数で勝負ってわけだろうが・・・それが裏目に出る事だってあるんだぜ!!」
レーザは群れに向かって再びブーメランショットを放った!!

すると何とブーメランは追ってきたほとんどのタガラムに命中して戻ってきた!

「お前達は広い所だと多くいてもよく動けるが、狭い所ならぎゅうぎゅう詰めになって上手く追う事も避る事もできねぇ。
だから俺はわざわざ追い詰められそうな狭いとこに逃げたってわけだ」
レーザは気絶したタガラムに薬を与えながら独り言を言った。



しかしタガラムの大群はまだ減らない。
今度は後ろからも襲ってきた!
「げっ!・・でもやってやるぜ!」
レーザは再びブーメランを投げるも、あっさりかわされてしまった。
タガラムの群れが噛み付こうと執拗に迫り、レーザはするどい爪で何度も引っ掻かれてしまった。
すると突然レーザがとっさにしゃがんだ!
頭上にいたタガラムたちが吹っ飛ばされていく!

「・・・ブーメランは帰ってくる・・」 レーザは変に格好つけるとまた薬を与えだした。

そんなこんなでレーザはタガラムに着実に薬を与え、また武器のブーメランとしての使い方にも少しずつ慣れてきた。

大群がだいぶ減って数えるほどになったときだろうか、タガラムとはまた違った羽音が近づいてきた!

そこにはタガラムに似てはいるものの、非常に腹の長いラヒが襲おうと待ち構えていた!
「少し姿は違えど、同じ倒し方をするまでだ!」レーザはそういうとまたブーメランの構えをとった。
「・・・気をつけて!そのラヒはマダラタガラムといって強力な毒針を持っているわ!」ペクティがとっさに説明する。
「ど、毒針ぃ!?」
驚いていられたのもつかの間、マダラタガラムはすでにレーザの背後に回っていた!
毒針はレーザの足元に刺さり、ぎりぎりの所で避けることが出来た。
「ここまで素早くて一匹だったら、かえってブーメランじゃ勝てないぜ・・」
レーザは作戦を考えようとするも、毒針が何度もすれすれの所まで向かって来てどうも出来ない。
「・・・ああもう!しゃらくせぇ!」
レーザは強引にその毒針の付いた長い腹を抱きかかえた!



「もう逃げられないぜ・・・この薬でも食ってろぉ!」レーザは無理矢理マダラタガラムの口にビンを突っ込んだ。「結果オーライだぜ」


すると次には、タガラムよりも遥かにうるさい重低音の羽音が村に響きだした。

今度は全身が銀色の鎧に覆われたような姿をしたタガラムが飛来してきた!
「何だぁこいつぁ!?」
「そのラヒはヨロイタガラムといって下手な攻撃を全く通さない頑丈な鎧を持っているわ!」
「何だと!?」
そう話している間に、ヨロイタガラムはまるでサイのように容赦なくツノで突いてくる!

レーザは連続角突きを何とか防いだものの、どんどん後ろへと押されていく・・。
「・・なんだこの馬鹿力は・・!」
レーザはとうとう弾き倒されてしまった。
「・・っつ・・刺される!」
ヨロイタガラムはレーザ目掛け一直線に向かってきた!

だがあまりに一直線すぎたため避けることはレーザには難しくなかった。
レーザは不意に思った。(こいつ・・他のタガラムと違って角しか使ってないぞ・・!?・・もしかして!)

レーザは相手の真横に跳ぶと、羽根に軽く攻撃を加えた。 が、分厚い甲羅を前に効くはずも無い。
次は真後ろに跳び、軽く攻撃した。かと思うと、再び真横から攻撃を加えた。
どうやらヨロイタガラムはそうしたパターン攻撃にもついていけず、レーザを捉えられなくなっているようだった!

「やっぱりお前は飛ぶのが下手なようだな!」
レーザはそう言うとヨロイタガラムの背中に飛び乗った!

「俺の見る限り、お前は重い体を上手く動かすことが出来ない。だから一番簡単な突進することと力押しでしか攻撃してこなかったんだろ?・・お前の弱点は角だ!」レーザは長々と言うと、角を足で封じた!
ヨロイタガラムは暴れて振り落とそうとしたが、やがて自らの体重の負荷で動けなくなった。
「もう気が済んだろ?」レーザはヨロイタガラムの口に薬を放り込んだ。

「これでこの群れの凶暴化は防げたな」レーザは一息つきながら言う。
「ご協力感謝します」ペクティは相変わらず堅苦しい。

すると村の避難場所の方からタルボ達が走ってきた。
「お〜い!レーザ!大丈夫か?」 「ああ、ちょっと危なかったけどな」
レーザは大人しくしているヨロイタガラムを見てこういった。「ラヒって、結構恐ろしいんだな」

「・・あ、そうだレーザ、まだ村長ん家に泊まってるんだっけ?」タルボが尋ねる。
「ん?ああ・・ちょっと天井低くて困ってるけどね」
「じゃあペクティん家に空き部屋があるっぽいからそこに住むのが良いよw」 タルボはやっぱり他人の事の方がいろいろ得意らしい。
「・・・え?・・あ、あることにはあるんですけど・・・でもあの部屋は・・・」ペクティは勝手に話を進められてちょっと困っているようだ。
「じゃあ決まりだね。レーザ、ペクティん家はこっちだよ」 
タルボの他人のひっぱりぶりにレーザもペクティもただただ混乱するだけだった。

レーザは(半強制的に)ラヒ研究家ペクティの家の空き部屋に住むことになった。

(空き部屋とはいえ女の子の家に住むのか〜。俺の仕組まれた運命もまだ捨てたもんじゃないか)
レーザはそんな事を考えながらも足を進めた。

その夜・・・

「ふぅ〜。空き部屋ってこいつと一緒かよ・・・怖くて眠れやしねぇ」
レーザのトンボ嫌いはまだまだ治らなそうである。

丁度その頃近くの茂みで・・・

「兄貴、見たでげすか?あの昼間のクモ」青い目のほうが言う。
「ああ、あれは使えそうだな。なんせあの憎きラヒどもを暴れさせれば手を下さずとも一仕事できるもんな」
赤い目のほうが答える。

「・・・そのクモ、使わせてあげましょうか?」

「誰だっ!」赤目が振り向くとそこには襤褸切れを被った背の小さな人物が立っていた。
「誰なんだと聞いているんだ」赤目が警戒する。

「・・私ですか?・・私の名は・・闇の商人、とでもいっておきましょうか」

背の小さなものは不気味な声でそう言った。 あまりの不気味さに赤目は身震いした。

「じゃあ闇の商人さんよぉ、さっきクモを使わせてくれるって言ったよな?」
「はい。私の力があればいとも簡単に操ることが出来ます」 闇の商人は暗闇の中で笑みを浮かべたようだった。
「なら、あのクモ達に俺たちの言うことを聞くよう仕向けてくれないか?」
「分かりました。・・・しかし、ただでという訳には行きません。・・・・あなたの持っている水色の石。それと引き換えです。」
「この石ころでいいんだな?」 赤目はそういうと闇の商人に盗んだガルバストーンを受け渡した。

「これで交渉成立です。ただし、クモの使い方が分かるまでのしばらくの間は私の指令にしたがってもらいますよ」
「ああ、使い方が分からなけりゃ逆に噛まれちまうからな。よろしくたのむぜ」 そういうと赤目と青目の物は去って行った。

「すべては計画通り・・・」

To be continued......

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タガランとかタガラムとかまぎらわしいぜ
タガ・ラムって表記すれば大丈夫だけど